【鈴木光司】ブルーアウト

「リング」「らせん」を書いた鈴木光司の新刊「ブルーアウト」を読了しました。トルコの軍艦・エルトゥールル号和歌山県串本沖で難破し、69名が地元民に救助された史実を描いた内容です。イラン・イラク戦争の際に在イラン邦人の脱出のために、JALすら拒んだ臨時便をトルコ航空がこの出来事のお礼として実現させてことで知られています。

しかし、残念ながらこの作品では、この史実を超える感動はもたらしてくれません。話がいかにも作り物であり、ところどころに鈴木の得意テーマである遺伝子や医学の知識もちりばめられてはいますが、どうにも現実感がないのです。特に、ダイバーである僕にとっては、モチーフに使われているダイビングに関する部分に違和感がありました。

基本的な用語の使い方が、いかにもテキストで読みかじったような素人臭さがあるのです。ガイドとゲストの関係を「バディ」の概念だけで語っているところや、緊急スイミングアセントの部分の不正確さも気になりました。水温18℃の海でウェットスーツという設定にも無理があります。あえて筆者にとってアウェイの世界観の中で語る意味合いが希薄に思え、物足りない読後感でした。