【周木律】アールダーの方舟

年末に読んでいた周木律の「アールダーの方舟」を読了しました。題材としては「ノアの方舟」をめぐってキリスト教イスラム教、そしてユダヤ教が絡むミステリで、もともと興味があるテーマだけにとても面白く読めました。「生」に関わる解釈についても、共感できる点が多くありました。
 
ただ、せっかく場をアララト山にした意味がないくらい、ほとんどが説明的な台詞に終始してしまい、展開としては単調過ぎました。何よりも一石がしゃべり過ぎで、話しかける相手として設定されたであろうアリスとの会話による進行が一方的なのです。ストーリーテラーが語る構成ということもあって、主人公が学者の一石なのか写真家のアリスなのかもわかりにくく感じました。
 
小説としての展開力はイマイチではありますが、着想とテーマの掘り下げには光るものを感じました。クルド人ユダヤ人の近似性についても、この作品によって新たに気づいた点です。周木律の今後に期待したいと思います。