【鈴木光司】タイド

「リング」シリーズの続編で映画「貞子3D」の原作となった「エス」に続いて出版された鈴木光司の「タイド」。彼らしい科学と伝奇、あるいはデジタルとアナログの絶妙なバランスで書かれた小説は、「リング」を一種の聖典として扱っています。「リング」「らせん」「ループ」「バースデイ」で完結したかと思っていたのですが、ここまで広がりを持たせてくれたイマジネーションが素晴らしいと感じます。

本作では貞子の弟にフォーカスを当てるとともに、そのルーツとされる役小角の系譜に迫ります。展開はさらに新たな章の存在をちらつかせながら思わせ振りにエビローグを迎えることから、本作は新たな序章としての位置づけのようにも思いました。今後にも、期待がふくらみますよ。

一方、著者の弱味は、会話にリアリティがなく、どことなく文語体なところ。心理描写はそれなりに深いのに、合理性というかロジックを重視するあまり、時に堅苦しさを覚えます。それが「味」と言えば、その通りなのですが… この台詞のままの会話はあり得ないし、映画化する際には脚本家の手腕が問われそうです。