【村上春樹】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

金曜日の夜に購入した村上春樹の新刊「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を、昨日読了しました。春樹といえば「僕」を一人称としたファンタジックな小説が持ち味だったのですが、「1Q84」以降ストーリーテラーの視点での語りに転向しています。「風の歌を聴け」から長編は全部読んでいる僕としては、この変化にはちょっと違和感がありますね。特に本作の展開では「僕」の視点では書きにくいので、この設定では致し方ないのですが…

ネタバレを避けるためにあまり詳しくは書きませんが、序盤からのミステリアスな展開の大部分に決着をつけずに、終盤でありきたりな主題を提示したことには大いに物足りなさを感じます。中盤までに自分の頭の中に浮かんださまざまな思いを、著者に否定されたような気がしてしまったのです。そこは読者の感じ方に委ねているのだとは思いますが、ちょっとすっきりしない気持ちになりました。

すでにそんな評判も出ているようですが、徐々に「エロさ」を増してきた村上春樹は、本作でもその路線を推し進めています。主人公つくるが見る夢の描写は、目を覆いたくなる場面もありました。正直不快な要素もそれだけ多く内包しているにも関わらず、読後感がそれなりに充実しているのはさすが春樹というところでしょうか。