【辻村深月】凍りのくじら

僕にとっては「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」と「ツナグ」に続いて、辻村作品としては3作目となる「凍りのくじら」。読み始めてすぐに、著者の感性が僕のそれに似ていることに気づきました。主人公が物事に触れたときの心の動きや感じ方、そして他人との距離の置き方は間違いなく著者本人の写し鏡なのだと思います。親近感が湧いて、感情移入もしやすくなりました。

しかし、小説の作りとしては未成熟な印象。「ゼロ、ハチ~」や「ツナグ」よりも早い時期に書かれた作品だけに、ストーリーテラーとしての側面はまだ発展途上なのでしょう。主人公・理帆子の元カレである若尾の終盤の描き方などは、エキセントリックというよりも唐突な印象で現実味が感じられません。話の展開が説明的に過ぎる場面も多々見受けられ、「ゼロ、ハチ~」や「ツナグ」を先に読んでいなければ途中で挫折していたかもしれません。

(映画版ではなく小説の)ツナグと違ってエンディングは万人受けしそうなものなので、読後感は悪くありません。軽い気持ちで読むにはちょうどよい作品だと思います。