【高野和明】ジェノサイド

サイエンスを題材にした高野和明の小説「ジェノサイド」。直木賞の候補にもなったこの作品を、一週間ほどで読了しました。遺伝学や薬学について十分に調査をした上で書かれていることには好感が持て、序盤で一気に広げられた「風呂敷」を最後できっちりと収めてくれるところも爽快な読後感につながります。

舞台はコンゴ、日本、そしてアメリカ。時間と空間を超えた複数のプロットが徐々に収束していく展開は見事。現実味のない設定も少なくないですが、そんなことも気にならないくらいのスピード感で読ませてくれるストーリーです。特にコンゴの少数部族を巡る「戦争」の描写は、迫りくるものがあります。

ただ、ところどころ気になる思想が見え隠れするのも事実。例えば南京大虐殺に関する記述は、やや一方的な価値観の押しつけにも見え、このストーリーを語る上では決して不可欠な内容ではないだけに、水を差されたような印象を受けてしまいます。サイエンスものといえば、僕は瀬名秀明の作品も好きなのですが、そろそろ次の作品が待ち遠しいところ。この作品もそうですが、知的好奇心を刺激されたい人にはサイエンスもののサスペンス小説は最適ですね。