【辻村深月】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ

もっとライトな内容を予想して読み始めた。すぐに、ギャップに気がついた。この小説は、おそらくは著者が長年、さまざまな角度から考え抜いてきた問題意識の総集編なのだろう。それほどまでに、言葉の端々、状況設定の細部にまでこだわりが感じられ、一瞬たりとも気が抜けない。だから、読み進めるスピードも必然的に遅くなる。

会話もリアルだ。言葉の裏側にある心理も、恐ろしいくらい的確に描写されている。合コンというものの正体、そしてそこで繰り広げられる女性同士の会話。そこには絶対的な迎合と、共通の価値観への追従が秘められている。会話の内容で勝った負けたが判定され、自分の人生の満足度が相対的に測定されてしまうのだ。また、母親と娘の嘘くさい蜜月を解き明かすには「娘代」という著者の使う単語が似つかわしい。娘らしく振舞うことの代償を金銭であったり、「パラサイト」という形で求めるのだ。

人との関わり方において、僕のスタイルは主人公みずほのそれと非常に近い。だからこそ、みずほの苦悩はよく理解できる。それと同時に彼女が持つ「違う人種に対する違和感」が、とてもリアルに伝わってくるのだ。

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<以下ネタバレあり>

このストーリーにおいてただひとつ理解が難しいのは、チエミの母親が娘に「逃げる」ことを指示することだ。事故のように描写されているが、母親にとっては殺意を持って刺されたと感じていたのでなければ、あそこで逃げろとは言えないのではないか。そのあたりの種明かしが欲しい気がした。