【バベル】通じない心の原罪

「バベル」というタイトルにこめられた意味は、「神の領域を侵そうとした人間が負う、言葉が通じないという原罪」。つまり、バベルの塔で神の世界に到達しようとした人間に下された、同じ言葉を話せないという罰にあります。本作では単に言語の違いだけではなく、障害によるコミュニケーション・ロスまで含めて描かれます。心が通わない世界にあって、さらに内に対する愛を追求することで、それがかえって外の世界に対して生んでしまう決定的な悲劇。それは人間の本質であり、恐らくは永遠に乗り越えられない課題なのでしょう。

複数のプロットが重層的に展開していく流れは「シリアナ」にも通じるところがありますが、140分を超える大作に興味をつないでおくという意味では成功していました。しかし、結果としてモロッコ人の家族やメキシコ人の一族に訪れた悲劇、そして役所広治と菊地凛子が演じる日本人親子にもたらされる救いのなさに対して、ブラッド・ピット演じるアメリカ人の一家にだけ残される希望は、いかにもハリウッドらしさですね。

一方で観光バスツアーのツアーメイトの間で生じる確執やエゴに見る欧米人気質や、聴覚障害者チエコを取り巻く日本の若者の描き方などはポイントを外しておらず、秀逸な印象です。菊地凛子のキャラクターはある意味エキセントリックなものでしたが、チエコの置かれている絶望的な孤独感を完璧に表現していたように思います。「インタープリター」等で取り上げられたテーマをもう一段高次に引き上げた文芸的な作品として、見る価値は大いにあるように思います。