【ボーン・アルティメイタム】不安定の美学

マット・デイモン演じるジェイソン・ボーン・シリーズの最新作、「ボーン・アルティメイタム」を六本木ヒルズで見てきました。月曜日の午後ということもあって、6列目に座った僕より前にお客さんはおらず、110席あまりのキャパは1/3も入っていませんでした。劇場内の注意事項がアニメで紹介されるのですが、これがシニカルかつ自虐的でなかなかおもしろかったです。

さて本編ですが、とにかくスリル満点で時間があっと言う間に過ぎていきます。それぞれのシーンは短いカットの連続で構成されていて、無駄が徹底的に省かれているのが特徴と言えるでしょう。紙芝居のように断片的なカットが多彩なカメラワークで織り成され、しかもそのカットが見難いのです。例えばカーチェイスのシーンでは、カメラも追っている車に載っているかのように揺れるし、ピントもぼけます。それがかえってリアリティを増し、興味を引き込んでくれます。ただ、何気なく見ていると重要なシーンを見逃してしまい、後で「あれ、今何があったんだっけ?」と思うことも一度ならずありました。

ロケ地もモスクワ(実際はベルリンか?)、マドリード、ロンドン、ニューヨーク、タンジール(モロッコ)と多彩で、それだけで海外旅行気分です。前述したようにカットが細かいため、撮影したフィルムもかなりの量にのぼりそうですし、エンドロールの長さも半端じゃないです。

またこの作品では、登場人物の肩越しに相手の表情やテーブルに置かれた書類を見せる手法が多様されています。視界が遮られて見る側には不安定なのですが、それがかえって見せたいものに視線を集中させる効果を狙ったのでしょう。添えられる音楽も、シンプルながら緊迫感を増してくれる佳作です。

(以下、ネタバレあり)
ラストシーンではボーンが死んでいないことを描いているので、次回作があるのかもしれません。マット・デイモンの無表情でありながら複雑な思いをうかがわせる演技は見応えがあるので、このシリーズの今後にも期待したいところです。

http://www.bourne-ultimatum.jp/