【原田マハ】スイート・ホーム

原田マハといえばアートや画家などの史実をベースにしたフィクションだが、本作はそれらが絡まない連作短編だ。短編ごとに主人公は変わるものの、とある街に住む女性という部分は共通する。通俗的にいえば「関西の住宅街に暮らす女性たちの群像」だが、洋菓子店を営む親子だったり、その客の料理教室講師だったりと年代や状況はかなり異なる。

そのせいもあるのかもしれないが、もともと原田は説明的な描写が多い小説家。はっきり言えば「説明が多すぎる」のだ。だから連作短編ともなれば、それぞれの作品で主人公のバックグラウンドや設定が細々と描かれる。それ自体はよくあることではあるが、会話に忍ばせたりすることもなく、戯曲のト書きのように説明的な文章が続くので、個人的には興味を削がれてしまうのだ。

ただ、クライマックスの見せ方はさすがだ。それぞれの短編の主人公の気持ちが最高潮になる部分を巧みに切り取り、絶妙な会話で表現する。電車の中で読んでいると、思わず胸が熱くなってしまったが、幸いマスクをしているので周囲に表情を読み取られることはなかったはず。でも、そのくらい読ませる作品ではある。短編ごとにヤマが来るので、その頂点も何度も訪れるから、心の準備をしておいた方がよいかもしれない。