【映画】ドライブ・マイ・カー

ほぼ3時間という長尺の作品だが、エンターテイメントというよりは芸術作品で、気を抜くタイミングが見当たらないほどに様々な要素を詰め込んでいる。テーマはコミュニケーションのあり方なのだろうが、それを表現するのに主人公の亡き妻のシーンをプロローグのように盛り込み、多言語による演劇という設定でさらに強めている。正直、もう少し削ぎ落して2時間ちょっとくらいにまとめてくれた方が、メッセージを受け取った側が咀嚼する余裕も生まれるはず。これだけ詰め込まれると、食傷気味になってしまう。特に、最後の韓国ユニットの部分は余分だったと、個人的には強く感じている。

その意味でも本作は、いかにも日本映画。絶叫や慟哭のような過剰な押しつけはないので、その点は安心してみていられるのだが、一方で全体的に演劇的なアプローチなので、違和感を覚えることも多いだろう。車中での会話が典型的だが、家福と高槻の会話も家福とみさきの会話も、普通の会話なら言葉を選びながら、間を挟みながら語るところを、台詞を読むように滞りなく発言するのは芝居がかっているとしか言い様がない。ただ、その演劇空間に違和感のない人なら、世界観に浸るには格好の舞台装置なのだ。

途中まで、岡田将生の演技をうないとは感じなかったし、演出としてはすごく中途半端な印象があった。しかし、車中での西島秀俊との対決のような会話のシーンでは、何かが憑依したかのような迫力があった。そしてそれは、その後に高槻が役者として一皮剥けるという流れに通じる。そのあたりをしっかりと演じ分けていたという点で、岡田の演技は高く評価すべきだろう。

蛇足にはなるが、これは「村上春樹作品の映画化」ではなく、春樹にインスピレーションを得た二次創作的な作品だ。春樹の世界観からは大きく逸脱しているので、その点に期待してはいけない。