【映画】幸せへのまわり道

実在した米国の子ども向け番組のパーソナリティ、フレッド・ロジャースをトム・ハンクスが淡々と演じる一方、マシュー・リースはクセのあるエスクァイアの記者として自身の死にゆく父親と向き合う。間だったり表情だったりに表れるふたりの表現力が素晴らしく、それをじっくり見せてくれる撮影と編集にも好感を持った。脇役にも実力派の俳優陣を配していて、安心してみていられた。

過去に家族を裏切ったことで疎遠になってしまう父親との距離。僕にとってはリアリティを感じざるを得ない設定なので、思わず自分に引き直して考えてしまう。姉の披露宴で殴りつけてしまうくらい憎悪を抱いていた父親に対し、取材に行った先のフレッドの逆取材のような質問を受けることで感情が少しずつ転換するロイド。途中までの展開では、キリスト教的な背景も交えながら伝統的な家族観が押しつけられている気がして、僕は嫌な気分になってしまっていた。

しかし、ストーリーが進むにつれて、そんな父親に反感を抱きながらも最期の時間を分かち合ったり葬儀を執り行ったりすることも「愛」なのだと、そう呼んでよいのだというメッセージを受け取ったような気がしてからは、心がとても軽くなった。家督を引き継ぐ上での、世間体まで見据えた義務感だと思っていたが、そんなに堅く考える必要はないのだと、フレッドが語りかけてくれた気がしたのだ。僕にとっては、個人的にとても大きな意味のある体験だった。