【サラ・クルッダス】Look Up

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英国のジャーナリストSarah Cruddasの書いた宇宙の本「Look Up」は、アポロ11号の飛行士として月面に降り立ったアームストロングとオルドリンを母船で待っていたコリンズのメッセージで始まる。ちなみに、マイケル・コリンズは今年の4月に亡くなっている。この著作は、宇宙というよりも、知の地平を広げる夢を持つすべての若い世代への応援であり、探求のモチベーションを高める檄文だ。サラの宇宙への愛情、そして知を探求することへの渇望と誘いが、この250ページほどの中に満ち溢れている。

アポロ計画の終焉以降、人類は月を目指すことをやめ、ISSでの実験的生活が主流になった。しかし、それらのすべての試みが宇宙だけでなく、基礎知識や科学技術、そして医療や繊維のような生活に密着した領域においても少なからぬ貢献を残している。宇宙での探索のために新しいスーツが開発され、無重力の経験から人間の体の謎が明かされる。そして、何よりも大きい「発見」は、宇宙空間から見る地球を発見したことだと、著者のサラは力説する。

宇宙から見た地球は美しい反面、壊れやすいもろい存在に見えるという。それは複数の宇宙飛行士が実感したことだそうだ。宇宙空間から地球を見ることで、国境や人種差別などの問題が小さく見え、より大きな環境課題に取り組む視点が持てるようになるともいう。この本を読んだだけでは実感しづらい部分もあるが、宇宙に行くことで新たな地球を知るという事実は、他の局面でも参考になるはずだ。自分たちは何者だったのか。それは、自分たちと異なる存在がいてこそ明らかになるのだ。そんなことを考えさせてもらうだけでも、この本を読む価値はある。洋書だが比較的平易な英語なので、知的好奇心を刺激されるのも悪くない。