【映画】テネット

前評判に違わず、わかりにくい作品だった。設定自体が複雑なこともあるが、物理現象である「対生成/対消滅」や「エントロピーの減少」といった事象をエッセンスだけ使っていることも大きいように思う。これらの事象は、一般教養レベルでは興味を持っている僕でも深く理解できているわけではないし、一般的な視聴者にとっては魔術の呪文と同じような意味にしか伝わらないのではないだろうか。逆に言うと、だからこそエッセンス以上には使えなかったのだろう。

タイトルの「TENET」が、順行と逆行という視点では「TEN」という単語の順行と逆行を示していることは、何となく気づく。軍事作戦に要する10分という意味と「9つのパーツ」を集めて動かす者としての「10」とう意味がありそうだが、そのあたりもこれ見よがしに見せるのではなく、ストーリーの中にサブリミナル程度に潜ませているくらいなのだ。制作陣が持っているテーマを十分に提示できたとは思えないし、こちらが十分に受け取って咀嚼できたとも思えない。

そう考えると、本作は映画ではなくドラマとして50分×10話くらいのボリュームをもたせてもよかったのではないだろうか。予算の関係もあるだろうが、派手な爆破やカーチェイスよりも、物理法則を絡めながら知的好奇心を刺激してくれた方が満足感高かったのではないかと感じる。ドラマを作るためのショーケースなのだとしたら、ある意味成功しているとは思うのだが…