【原田マハ】リボルバー

史実に着想を得て、ある意味「妄想」を膨らませることで作品に仕立てる。それは、小説家ならではの仕事であり、特権でもある。この作品「リボルバー」はフィンセント・ファン・ゴッホとポール・ゴーギャンという二人の後期印象派の画家を実質的な主人公として、絵画ではなく拳銃をキーにして展開されるミステリー要素を持たせたエンターテイメントだ。舞台もパリやオーヴェール・シュール・オワーズといったフランスなので、旅に出掛けられないこの時期にはうれしい。

アートの世界を表面だけではなく、しっかり掘り下げて描くのは原田マハの真骨頂。本作でも、単に印象派が好きな日本人作家ではとても書けないようなしっかりとした背景知識で、骨太な内容に仕上がっている。ただ、それは同時に「私はわかっている」という意識が垣間見えることにもなるので、鼻についてしまうケースもあるだろう。特に日本語の単語にフランス語の読みでルビを振っているところがいくつもあり、さすがにこれはやりすぎ感があった。作品の魅力を高めるというよりは、「おフランス感」だけが強められているように思うのだ。そんなことをせずとも彼女の作品の持つ世界観に浸れるのだから、過剰なスパイスは必要ない。

それにしても、ここまで妄想を膨らませている過程は、著者にはたまらなく充実した時間だったのではないか。意味が別の意味と融合されて文脈をなし、ストーリーが織り成されてゆく。その過程は小説家にとって、かけがえのない時間だろう。出来上がった作品の価値以上に、本人が楽しんだ時間こそが小説を書くことの本当の意味なのだと僕は思っている。