【映画】サウンド・オブ・メタル

この作品は、後天的に聴覚に障害を持った人を描いているが、その障害を克服するというよりは受け入れるに至るまでの物語だ。世の中には、状況を受け入れる人と何とかして変えようとする人がいる。例えばオフィスの空調が効きすぎると感じたときに、すぐに温度を調節しようとするか、上着やひざ掛けで調節しようとするかということ。僕は基本的に後者で、自分の範囲の中で対処しようとする傾向がある。

医療ドラマの医師は何が何でも患者の命を救おうとして、それが叶わないと悲嘆に暮れたりするが、どうしても違和感を覚えてしまうのだ。その意味で本作のストーリーは納得できるのだが、価値観の違う人も多いので、反発してしまうこともあるだろう。問題提起に意義があるのだろうし、それが映画の持つパワーなのかもしれない。

聴覚障害を描くということもあり、この作品では音にこだわって作られている。主人公の主観になる部分と一般的な聞こえ方になる部分が、特に説明もなく揺れ動く。それでも違和感なく見進めることができるのは、本作の素晴らしさだろう。無音状態の使い方も絶妙で、「君の名は。」にも通じるところがあるが、無音に籠められた意味はまったく異なる。映画とは総合芸術なのだと、改めて思い知らされた。

主人公のパートナーを演じるオリヴィア・クックは、「ベイツ・モーテル」のエマ。雰囲気的にはまったく異なる役柄をうまく演じていた。