【原田マハ】アノニム

原田マハのエンターテイメント作品「アノニム」がKADOKAWAから文庫で出ていたので、読んでみた。彼女は本来、文学的な小説を書いているのだが、これは登場人物をイラストがあり、設定もいかにもシリーズ化をもくろんでいるように見える。それなりにおもしろいのだが、エンタメとしては不慣れな面が出てしまい、まだまだ消化不良な読後感だった。

仕立てはよいのだが、とにかく台詞が安っぽい。かつて読んだ宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」にも近いものを感じたのだが、小説家が新しい領域に挑んで、その領域のお約束をこなしている自分に酔ってしまっているように見えるのだ。等身大のさりげない台詞を書ける人なのに、エンタメっぽくするためにおどけた表現を使ったり、オヤジジョークを言わせたり。それらしい展開になればなるほど、作り物感が増してしまい、悦に入っているであろう作者の心情が頭に浮かんで楽しめなくなる。

この作品をエンタメとして完結させるのであれば、オークションの後のアノニム一派の活躍の後、最後はしてやられたビッダーがどうなったのかを描くべきだった。ところが原田は、香港デモと絡めた感動ストーリーに持ち込んでしまったのだ。この展開で感動を煽られても深掘りができていないから薄っぺらい印象になってしまうのだから、コミカルな部分を描いて次作につなげた方がよかったのではないだろうか。