【Nothing's Carved in Stone】By Your Side

ナッシングスは好きなバンドだ。ライブはフェスでしか聴いていないのだが、その日のギグの中でベストアクトだと感じたことが何度もあるし、カラオケで歌うこともある。これまでの彼らの、僕が聴き始めてからの歩みの中では、メジャーデビューを果たしたものの方向性の違いと束縛感から元のレーベルに戻り、そして自らのレーベルを立ち上げるに至るという経緯を見てきている。

そんな中でのアルバム「By Your Side」は、彼らの迷走を浮き彫りにしているように僕には見える。ナタリーの記事を読む限り、彼らは「音作り」と「歌詞」にこだわったことがわかる。確かに音は非常によく、ナッシングスらしいプログレッシブな構成にドラムスとベースが小気味よく刻まれ、生形のちょっと古臭いギターが乗ってダンサブルな仕上がりになっている。ただ、僕の印象ではボーカルが合っていないように思うのだ。

以前から指摘しているように村松拓は英語の発音が下手なのだが、英語の歌詞が彼らの作る楽曲のフレージングに合っていないようにも思う。だからこその「歌詞」へのこだわりということなら理解できるのだが、ボーカルが妙にナチュラルな音になっている上に、このバンドの雰囲気に合わない「僕ら」というような一人称が使われていることが彼ら自身が嫌っていたはずの「売れ線」への回帰にも見えてしまう。結局彼らは何をしたいのかに迷い、堂々巡りをしているのではないだろうか。「Music」は優れた楽曲ではあるのだが、メッセージとしてはまとまっていないように見え、僕は素直に楽しむことができないでいる。