【映画】バイス

ジョージ・W・ブッシュ大統領時代に副大統領を務め、実質的に権力を掌握していたと言われるディック・チェイニーの物語だが、彼を演じたクリスチャン・ベールの表情が素晴らしかった。ジョージ・W・ブッシュラムズフェルドなど、実在の人物に似せたメイクも秀逸で、ドキュメンタリーのようにも感じられ、どこまでがフィクションなのかわからなくなるような作品だった。

タイトルの「VICE」は、「悪」という意味と「副(大統領)」という意味が掛けられているのだろうが、深読みすればもう一つの意味が見出せる。それは、英語でもよく用いられるラテン語の表現「Vice Versa」。これは「逆もまた真なり」という意味だが、副大統領という国家を代表するポジションに立つ者として、個別の善悪に走らずに大局的な判断をすべき場面は多くあるはず。個別には「悪」に見えても、マスで考えた場合にはそれが最善策であることもあり得る。

実際、この作品で語られているチェイニーの価値観は利己的に見えるが、911への対処などは国家の判断として十分に考えられるものではないか。企業でも似たような局面はあって、個々の社員の希望を叶えるために企業の利益を無視することはあり得ない。それと同じことで、チェイニーの判断を一律に「悪」と決めつけるのではなく、それもまた「真」であるという視点で見ると、景色が違ってくるはずだ。