【原田マハ】風神雷神

原田マハの新刊「風神雷神」を読了した。彼女の持ち味は専門領域であるアートを素材とした展開力だが、これまでにも増して壮大なフィクションに仕立て上げられていた。悪く言えば「大ボラ話」でもあるのだが、掛け値無しに面白いし、先を読みたくてワクワクするという意味では間違いなく秀作だ。

俵屋宗達を主人公に、原マルティノ天正遣欧使節団とカラヴァッジオを交えて舞台も日本からマカオ、ゴア、マドリード、ローマ、そしてミラノへの移ってゆく。終盤のイタリアの旅の中で現地の人たちと直接会話させるために、ラテン語ではなくイタリア語を学んだという設定なのはかなりご都合主義だが、米国ドラマなどでも似たような事例は多くあるから理解はできる。ただ、あくまでもこれがフィクションであって、作者のロマンを膨らませたものであることを誤解しないようしたい。

ちょうど先日、東京国立博物館正倉院展を訪れた。本作の中で天正遣欧使節団が嵐の海を越えてローマを目指す描写があるが、正倉院展に展示されていた宝物も同様に大いなる苦難を越えてもたらされたということが実感できた。宗教やビジネスという強い思いの下でこそ成し遂げられたと考えると、やはり事業はミッションであり、それに対する強いモチベーションが必要なのだとあらためて思う。